特許 令和3年(行ケ)第10165号「配送荷物保管装置」(知的財産高等裁判所 令和4年8月30)
【事件概要】
本件は、無効審判事件において、「本件審判の請求は、成り立たない。」とした審決が維持された事例である。
【争点】
主な争点は、本件発明の「接続体は、ドアの一部と配送荷物収納体との距離を伸縮可能とする伸縮部34を備え」が容易か否かである。
【結論】
主引用発明である甲2発明においては、盗難防止用連結ワイヤを伸縮可能なものとすることが示唆されていない。甲2発明においては、配達物を収納していないときの形態の宅配容器は、「宅配容器取っ手」を使用して玄関外側のドアノブに掛けられ、他方で、宅配容器に接続された盗難防止用連結ワイヤは、玄関内側のドアノブや建物内部の玄関周り固定物に接続することとなるので、同ワイヤは、これを可能とするのに十分な長さを確保する必要があるといえる。そうすると、配達物を収納していないときの形態における甲2発明においては、盗難防止用連結ワイヤの長さを、ドアの一部に吊り下げられるように短縮する構成は採用し得ず、そのような構成を採る動機付けは存しないというべきである。次に、副引用発明である甲4発明は、連結機構を伸縮可能とする構成を含むものではなく、本件発明における伸縮部に相当する構成を備えていないというべきであり、また、技術的内容としても、本件発明における伸縮部に相当する構成を採ることは想定されていないというべきである。さらに、甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術には、本件発明における伸縮部に相当する構成は含まれない。
したがって、当業者が、甲2発明、甲4発明及び甲5公報ないし甲7公報から認定される周知技術に基づいて、相違点に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たものとは認められない。
【コメント】
原告は、予備的主張として、接続体が伸縮自在な盗難防止具である甲7技術が周知技術であったことを前提に、かかる周知技術を甲2発明に適用して本件発明の構成とすることの動機付けが認められるべきである旨主張したが、判決は、仮に、原告が主張するとおり、接続体が伸縮自在な盗難防止具である甲7技術が周知技術であり、これを甲2発明に適用することが動機付けられ得るとしても、甲2発明においては、少なくとも相違点3に係る本件発明の構成「配送荷物収納体が第1の形態の場合に『前記伸縮部を短縮した状態として』配送荷物収納体がドアの一部に吊り下げられた状態とする」を採ることについて、阻害要因が存するというべきであることからすれば、当業者が、甲2発明に甲7技術を適用して本件発明の構成とすることを容易に想到し得たものとは認められないとして上記原告の主張を採用しなかった。